本サイトについて
はじめに
人工衛星は、宇宙プラズマ環境の影響を大きく受けています。その影響は、原因となるプラズマ粒子のエネルギー帯によって以下のように分類されます。
・極めてエネルギーが高い(~GeV)太陽高エネルギー粒子や銀河宇宙線は、衛星搭載のコンピュータやメモリに誤動作を引き起こすことがあります。
・放射線帯の高エネルギー電子(数百keV~MeV)は、衛星構体を突き抜けて衛星内部の部品等に蓄積します。これを衛星深部帯電といいます。蓄積された電荷が放電されると衛星搭載機器の誤動作や故障につながることがあります。
・これらに加えて、磁気圏内に存在するエネルギーがkeVから数十keVのプラズマは衛星表面帯電を引き起こします。サブストームと呼ばれる磁気圏じょう乱が発生すると、地上ではオーロラが活発になる一方で、宇宙空間ではこのような時、磁気圏尾部から内部磁気圏領域にプラズマが流入し、そこに居合わせる衛星の表面に電荷が蓄積します。これを衛星表面帯電といいます。磁気圏尾部からは地球の磁力線に沿って極域にもプラズマが流入し、極軌道衛星等の表面帯電を引き起こします。電荷が放電される際に衛星に物理的損傷が生じることがあります。
宇宙環境は時間・空間変動が大きいため、衛星の周囲の環境は刻々と変化しており、同じ時刻であっても衛星の位置によって周囲の環境は異なります。また、仮に同じ環境下でも、衛星の構造や素材によって帯電状況は異なってきます。つまり、ある衛星が今どのような帯電リスクに晒されているかは、「その時刻、その衛星の位置のプラズマ環境」と「その衛星の構造と素材、姿勢等」によって大きく異なります。
このようなことから、宇宙環境モデル(磁気圏モデルや放射線帯モデル)と、衛星の構造や素材の情報を取り入れた衛星帯電モデルを連携させることで、衛星個々の帯電リスクを推定する取り組み「SECURES (Space Environment Customized Risk Estimation for Satellites)」を進めています[1]。
SECURESの下、本サイトでは静止軌道領域の表面帯電リスク情報を発信しています。
データとモデル
プラズマ環境データは、DSCOVR探査機によって取得されたリアルタイム太陽風観測データを入力としたリアルタイム磁気圏シミュレーション[2]によって計算されたものです。リアルタイム磁気圏シミュレーションは情報通信研究機構の高速計算システム上で運用されています。モデル衛星としては、Spacecraft Plasma Interaction Software (SPIS)を用いて仮想的な静止軌道衛星(3軸商用衛星を模擬)を設定しています[3]。
磁気圏シミュレーションの結果から抽出されたモデル衛星位置でのプラズマ環境データを用いて、その環境に対するモデル衛星の表面電位最大値・フレーム電位・乖離電位(表面電位最大値とフレーム電位の差)を求めています。
図の見方
磁気圏シミュレーションで計算した宇宙空間のプラズマ圧力分布を表示しています。
・磁気圏赤道面を北側から見た図。左側が太陽方向。
・静止軌道球面(6.6地球半径、高度約36,000km)をメルカトル図法で表示。
・日本セクターは経度135°、これに対して環境データが時間(地球自転)とともに移動。
・小さな円は日陰の領域を示しています。
・真昼側高緯度域に見られるプラズマ圧力が高い領域は、磁気圏プラズマとは別の要因で形成されているため、本リスク推定の対象外です。
参考文献
[1] T. Nagatsuma, A. Nakamizo, Y. Kubota, M. Nakamura, K. Koga, Y. Miyoshi, and H. Matsumoto, “Development of space environment customized risk estimation for satellites (SECURES).” Earth Planets Space, Vol. 73, No. 26, 2021, https://doi.org/10.1186/s40623-021-01355-x.
[2] 中溝葵,久保田康文,「磁気圏MHDシミュレーションの研究開発」,情報通信研究機構研究報告,Vol. 67, No. 1, pp. 97-104, 2021.
[3] M. Nakamura, A. Yamamoto, A. Nakamizo, and T. Nagatsuma, “Spacecraft surface charging estimation method around the geosynchronous altitude,” in Proc. the 16th Spacecraft Charging Technology Conf., 2022.
謝辞
本サイトに関わる基盤研究は、科学研究費補助金 新学術領域研究「太陽地球圏環境予測:我々が生きる宇宙の理解とその変動に対応する社会基盤の形成(PSTEP)」の枠組みのもと,大阪府立大学(現、大阪公立大学)、宇宙航空研究開発機構、情報通信研究機構の協力で実施されました。
本サイトは、総務省委託業務「0155-0099電波伝搬の観測・分析等の推進」の支援により構築されました。
DSCOVR探査機によるリアルタイム太陽風データは、アメリカ海洋大気庁(NOAA)宇宙天気予報センター(SWPC)より提供されています。
免責事項
本サイトで提供しているプラズマ環境データは磁気圏モデルでシミュレートしたものであり、衛星電位はそのプラズマ環境データおよび仮想的なモデル衛星を組み合わせた推定値ですので、あらかじめご了承ください。本サイトの情報は情報通信研究機構が提供するものであり、情報通信研究機構およびその職員は、本サイトから提供されるすべての情報に関して、それらの情報を使用することによって生じた損害・不利益等に関して、何ら責任を負うものではありません。本サイトで提供される情報は、事前の予告なく一部または全部を一時的または永続的に停止・中止する場合や、内容や属性(書式を含む)等の変更等が施される場合があります。
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